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ショートノベル「クロとシロ」



 花が散り、緑が染まると、雨が多くなる。
 白い壁の一軒家で飼われている黒猫のクロは、この時期は決まって顔を掻く。どうやら、雨が近いらしい。

 彼はふと高い位置にある窓際へ颯爽と飛び乗り、外の様子を伺った。
「よぉ、クロさん。シャワーの時間だ」
 彼の視界に白い毛の猫が入る。野良猫のシロだ。
「そりゃいいや。今、そっちに行く」
 クロは床に着地し、自分のために用意された勝手口を抜け、気のおけない友人の下へと急いだ。

 家を出ると、頭の上ではゴロゴロと音が鳴っている。どうやら頃合いのようだ。
「ヒトに飼われてるんなら、風呂に入ったらどうだ?」
 シロは相手の反応を知りながらも、いつものように喋る。
「君は本気で、レンガより硬い石から噴き出る熱湯が気持ちいいと思うのか?」
 黒猫の「何度も言わせるな」という渋い表情を見ると、シロはクスクスと微笑んだ。
「そうだな。ヒトは本腰で、ネコ用のシャワーでも作るといい」
 クロが「ごもっとも」と言わんばかりにひとつ頷くと、空からポタ、ポタポタ……と雫が落ちてきた。
「さぁ、シャワータイムだ」
 黒猫は大きな伸びをし、雨を一身に受けようと、庭先のアスファルトに寝転ぶ。
 この地面は少し暖かい。うつ伏せの状態から仰向けになると、寒暖が調整されてとても気持ちがいいのだ。
「君はいいな、この後は天日干しができて」
「おや、新鮮なタオルで体を拭いてもらえるのは幸せじゃないのか?」
「何を贅沢に思うかは、ネコの勝手だ」
 ついでに、自分のことを飼い主がどう思うかも勝手だ。そう言い添えて、クロは仰向けになる。
「うーん、今日はもう少し地面が暖かいとよかったが……」
「ま、家に帰ったら、少しはヒトに媚を売れよ。迷惑かけるんだからな」
 シロはゆっくり、そしてダラリと一回転し、雨のシャワーを楽しむ。

「後でドーナツでも食べるかい?」
 クロの勧めに、シロは首を傾げる。
「そりゃどういうことだ? ヒトから失敬したのか?」
「赤子の世話もしたのに、報酬が少なかったんでな」
「ハハッ、クロさんが自分の分をお裾分けしてくれるわけねぇな」
「君がいつだったか、恩着せがましいのはイヤだと言ったから……」
 それを聞いたシロは「さて、よく覚えてませんねぇ」と笑った。
「じゃあ、ご厚意に甘えますかねぇ」

 雨はまだ止みそうにない。
 雲は上でゴロゴロ。猫は下でゴロゴロ。
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市川智彦(いちかわともひこ)

Author:市川智彦(いちかわともひこ)
 ひっそりとシナリオライターをしております。

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