ショートノベル「お困り龍と棚ボタ猫」


 どこか遠くに、地面が宙に浮く不思議な世界があるといいます。
 ここには開拓者と呼ばれる者たちが住む長屋があり、さまざまな形をした相棒が活躍しているそうです。
 ただ、相棒は留守番を申し付けられることが多いそうで……
 とにかく、彼らは家を空けているご主人が帰ってくるのを、自分なりにじっと待っているのです。

 とはいえ、そこはあくまで「自分なり」。
 たまには、こんなお気楽な日もあります。


 若き修羅の青年に飼われている黒猫が2本の尻尾をご機嫌にくねらせて、同じご主人を持つ龍の下へと遊びに来ました。
 相手は自分の身の丈をゆうに越えますが、とても心穏やかで優しい性格の持ち主です。
 黒猫は、この龍の背中から地面まで滑って遊ばせてくれるのがとても楽しみでした。

 しかし、この日は少しションボリした表情を浮かべているように見えます。
 黒猫はいつもの挨拶もそこそこに、何があったかを尋ねました。
 すると、龍は紐で括られた「あるもの」を鉤爪で引っ掛け、黒猫の前に差し出します。それは生魚でした。
 とっさに黒猫は「ご褒美だ!」と飛びつきそうになりましたが、友の悲しそうな目を思い出して自重……
 なんとか事情を知ろうと、身振り手振りを交えてがんばりました。

 その内容を察するに、どうやら近くに住む人から「ご主人の留守を守るとは立派だ」とご褒美がてら貰ったようです。
 黒猫は「なるほど」と頷くと、焼いて食べればいいと思い、近くの茂みから丈夫な木の枝を持ってきました。
 それを手馴れた様子で魚に刺し、あとは火を……と、おもむろに龍の目の前に魚をかざします。
 その様子を見た龍がキョトンとした顔で少し戸惑いましたが、器用に振られる枝につられ、首を何度か横に振り出します。
 それを見た黒猫は、慌てて手を引っ込めました。彼は火を待っていたのですが、もしこのまま焼いてもらったら、自分まで丸焦げに……!
 まぁ、実際に火を噴けるかどうかはわかりませんが、用心のため、黒猫は龍の飼育に携わる人に頼んで火を起こしてもらいました。
 そこに2匹が枝を出し、生臭さが少し薄れたこんがり焼き魚を作ります。もちろん、火加減は黒猫の直伝です。
 お味はもちろん、黒猫も龍もご機嫌になる美味しさでした。

 ご主人様にちゃんと残しておきたいところでしたが、魚が痛むといけないので、2匹でお腹いっぱい食べましたとさ。
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市川智彦(いちかわともひこ)

Author:市川智彦(いちかわともひこ)
 ひっそりとシナリオライターをしております。

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